第四回/2003年 21世紀くすり俳句大賞第四回/2003年 21世紀くすり俳句大賞

【選評】

くすりはいのちのためにあり、いのちは輝くためにある。そして、俳句はいのちを見つめ、讃える詩だ。この思いから設けられた21世紀俳句大賞の第四回、相変わらず多数の句が寄せられただけでなく、質の高まり深まりは驚くばかりだ。
大賞、谷弥住子さん、暑い夏の真昼の涼しい場所での昼寝の夢の中で誰かと会っていた。目が覚めてみると、自分は夢の外にいて、相手は夢の中に置きざり。相手は遠い昔の友かもしれないし、かつての愛する人かもしれない。どこかに幽明境を異にする感もあって、しみじみと深い佳句だ。
優秀賞の法水究さん、山中の木蔭ででもあろうか、岩を見つめていると、岩自身が何かと思い出し思い出しするように滴ったかと思うと止み、止んだかと思うと滴る。滴りの本意をみごとに捉えた一句だ。堀口富男さん、秋の水のうまさは口やのどだけでなく、胃袋にも如実だ。あるいは胃の疾患から回復しての実感かもしれない。神崎正道さん、里神楽の神に扮している男が尿意を催し、排尿して戻って来てまた神になった。思わず微笑を誘われる平和な農村の一点景である。優秀作三句ともテーマは共通して水だが、いのちが水に宿ることを思えば当然の結果かもしれない。
佳作、準佳作、入選、それぞれ傑作ぞろい。他の誰かが選べば、いや私でも別の日の別の目で選べば、入選のどの句かが優秀作になることだって、じゅうぶんにありえよう。次回はどんな力作・秀作が寄せられるか。いまから期待に胸がふくらむ。

◎なお審査員の責任において部分的に添削した作があることを申し添えます。

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【審査員】

写真:高橋睦朗氏

高橋睦朗氏 Mutsuo Takahashi高橋睦朗氏 Mutsuo Takahashi

現代日本を代表する詩人のひとり。現代詩のほか、俳句・短歌・小説・脚本など多方面に活躍。俳句関係の著作に『荒童鈔』『稽古』『賚』『花行』『遊行』『十年』『私自身のための俳句入門』『百人一句』『季話百話』『歳時記百話』『詩心二千年』。読売文学賞ほか受賞多数。二〇〇〇年度 紫綬褒章、二〇一二年度 旭日小綬章、二〇一五年度 現代俳句大賞受賞。

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