第五回/2004年 21世紀くすり俳句大賞第五回/2004年 21世紀くすり俳句大賞

【選評】

くすりはいのちのために、いのちは輝くためにある。そして、俳句はいのちを見つめ、讃える詩だ。この思いから出発した21世紀俳句大賞も今回で第五回。昨年は相次ぐ台風、地震、そして年末のスマトラ沖大津波と、多難な年だったが、力強く心にしみる句が多数寄せられた。
大賞、神崎正道さん、大学のある都会から夏休みで故郷に還って来た帰省子が、家を取り囲む久しぶりのなつかしい山河風景に昂って、夜更けても起きている。その夜は月夜でもあろうか。「なほ青し」に青春のみずみずしい感受性への讃嘆もこめられていよう。
優秀賞の松本好勝さん、寒さの極み、しかしもうそこまで来ている春の訪れに敏感なのは子供と子犬、「子が走り子犬が走り」春はつい隣にいるのだと、大人たちにも気付かせてくれるのだ。石坂寿鳳さん、思わぬでっかい「嚔」が出て、目の前の山のひとつを揺り起こしてしまった。「嚔」は冬の季語だから、元気いっぱい?の「大嚔」によって、眠る山を春に魁けて目覚めさせたことになる。その健やかな諧謔がめでたい。緒方輝さん、「一歩前に」はかつての軍事教練の掛け声。この掛け声に従って一歩前に出て、そのまま夏雲の立つ彼方に出征した若人は、それっきり帰って来ず、戦後もついに六十年を数える。帰って来ないいのちを惜しむことで、いのちの大切さをせつないまでに感じさせてくれる佳句だ。
佳作、準佳作、入選に力作が揃ったことも見られるとおり。次回はどんな句が寄せられるか。期待にわくわくしているのは審査に当たる私ばかりではあるまい。

◎なお審査員の責任において部分的に添削した作があることを申し添えます。

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【審査員】

写真:高橋睦朗氏

高橋睦朗氏 Mutsuo Takahashi高橋睦朗氏 Mutsuo Takahashi

現代日本を代表する詩人のひとり。現代詩のほか、俳句・短歌・小説・脚本など多方面に活躍。俳句関係の著作に『荒童鈔』『稽古』『賚』『花行』『遊行』『十年』『私自身のための俳句入門』『百人一句』『季話百話』『歳時記百話』『詩心二千年』。読売文学賞ほか受賞多数。二〇〇〇年度 紫綬褒章、二〇一二年度 旭日小綬章、二〇一五年度 現代俳句大賞受賞。

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