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第七回/2006年 21世紀くすり俳句大賞
【選評】
病気、つまり病んだ気を、元気、すなわち元の気の状態に戻す薬の力は、神秘に満ちている。その神秘に打たれた太古の人びとは、感動して「奇し」と嘆じ、「奇物」と讃えた。それが薬の語源であろう、と考えられる。
くすりを媒介にいのちの奇蹟を見つめる、ケロリンの富山めぐみ製薬「21世紀くすり俳句大賞」第七回。相変わらず全国から多数の力作が寄せられた。とくに今回の上位はすべて新顔。新顔にふさわしく、作品もそれぞれ新しい魅力に満ちている。
大賞の中村弘さん、僧正遍昭の「はちす葉のにごりにしまぬ心もてなにかはつゆを玉とあざむく」、蕪村の「蓮の香や水をはなるゝ茎二寸」以来、蓮の名歌や名句は数えきれないが、これはまた蓮の花の精神性を捉えておみごとというほかない。植物のいのちを讃えることは、そのまま人間のいのちを讃えることでもあるのだ。
優秀賞。鈴木和雄さん。一見グロテスクな蓑虫にほのかな口を発見した。山本鍛さん、胃検査の内視鏡に秋の灯のひとつを見いだした。佐藤博一さん。いじめ論議かまびすしい世情の中で、泣かせたり泣かされたりすることにむしろ少年期の健全さがあることを提言した。ケロリン社長賞の嶋津三奈さんも含めて、さまざまないのちのありようがいきいきとうたわれている。
佳作、準佳作、入選、どの句も捨てがたく私でない人が選んだら、いや私自身別の日に選んだら、別の結果になったかもしれないと思うほどの粒ぞろい。きたる第八回にも、多数の佳句を見せていただきたい。
◎なお審査員の責任において部分的に添削した作があることを申し添えます。
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【審査員】
高橋睦朗氏 Mutsuo Takahashi
現代日本を代表する詩人のひとり。現代詩のほか、俳句・短歌・小説・脚本など多方面に活躍。俳句関係の著作に『荒童鈔』『稽古』『賚』『花行』『遊行』『十年』『私自身のための俳句入門』『百人一句』『季話百話』『歳時記百話』『詩心二千年』。読売文学賞ほか受賞多数。二〇〇〇年度 紫綬褒章、二〇一二年度 旭日小綬章、二〇一五年度 現代俳句大賞受賞。
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