第八回/2007年 21世紀くすり俳句大賞第八回/2007年 21世紀くすり俳句大賞

【選評】

くすりは、いのちを輝かすためにあり、いのちは森羅万象を讃えるためにある。今日のように地球環境の危機がうんぬんされる時はなおさらだ。讃えることは滅びから救うことにつながらなければなるまいからだ。
くすりを媒介にいのちの営みの不思議を見つめる、ケロリンの富山めぐみ製薬「21世紀くすり俳句大賞」も第八回を迎えた。今回の応募作品は、前々回、前回に増して、いっそう力強さと繊細さを増したようだ。前回に引きつづき、上位のほとんどが新顔なのも、頼もしい限りだ。
大賞の江田三峰さん、町のそこここで一晩じゅう灯っているコンビニ。そこにまるで火を慕う蛾のように、どこからか集まってくる少年ら。彼らもひとりひとり、憧れと悩みとを持って生きているのだ、と、作者の眼差は限りなく優しい。
優秀賞は自分、母、父‥‥と身近なテーマが揃った。寺内定雄さん、誰にも起こされたくない春眠だが、いつまで眠っていても起こす人もいないのもかえって寂しいもの。山田れい子さん、臥せっている父はあるいは重篤な病状にあるのかもしれない。月光の一島というところに悲愴な存在感がある。村田一広さん、一転してなつかしいのは、母が灯せば母の色という、母の語の重畳にあろう。娘にとっての父、息子にとっての母、二つのありようについて考えさせられた。ケロリン社長賞の石田和子さん、晩学のノートに増えゆくとは作者自身のことか。学ぶ愉しさときびしさとが感慨ぶかい。
佳作、準佳作にも多彩な作品が並んだ。その根には多彩な生きかたがある、ということだ。今回も選者として生きる励ましを戴いた。

◎なお審査員の責任において部分的に添削した作があることを申し添えます。

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【審査員】

写真:高橋睦朗氏

高橋睦朗氏 Mutsuo Takahashi高橋睦朗氏 Mutsuo Takahashi

現代日本を代表する詩人のひとり。現代詩のほか、俳句・短歌・小説・脚本など多方面に活躍。俳句関係の著作に『荒童鈔』『稽古』『賚』『花行』『遊行』『十年』『私自身のための俳句入門』『百人一句』『季話百話』『歳時記百話』『詩心二千年』。読売文学賞ほか受賞多数。二〇〇〇年度 紫綬褒章、二〇一二年度 旭日小綬章、二〇一五年度 現代俳句大賞受賞。

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