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第九回/2008年 21世紀くすり俳句大賞
【選評】
くすりはいのちを活かすためにあり、いのちは世界に意味を与えるためにある。その世界が昨年来、変調を露呈している。人間の計らいで世界の将来などどうでもなると多寡をくくった結果ではあるまいか。
ケロリンの富山めぐみ製薬「21世紀くすり俳句大賞」は、くすりを媒介にいのちの不思議を見つめ、世界の意味を問いなおす、ささやかな試みだ。この試みの九年目の今回、一万句を超える投句をいただいたことは、変調の見える今だからこそ、いのちも世界もあるべき原点にもどらなければという、良識の健在を示すものではないだろうか。
大賞の水上弧城さんの句にあるとおり、われわれ人間は、大宇宙の一部である銀河のそのまた端の小さな星に生きているという自覚こそ、げんざい最も肝要な知恵かもしれない。
優秀賞の神﨑正道さんの生まれたばかりの全身みずみずしく濡れた月に驚くこと、佐藤一博さんのぶらんこに乗る少年への将来への熱い励まし、小野鹿角男さんの目覚めて邯鄲の鳴く音を聞きながら寝入り夢のつづきを見る安心感、すべて世界の森羅万象に包まれて謙虚に生きることの豊かさの再確認だろう。ケロリン社長賞の上村美翔さん、ストーブの熱越しに見る意中の相手への思いが、押さえた分だけかえって強く感じられる。
佳作、準佳作にも、大賞・優秀賞に劣らない力作が目白押し。人間は、世界は、まだまだ大丈夫と信じたい。
◎なお審査員の責任において部分的に添削した作があることを申し添えます。
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【審査員】
高橋睦朗氏 Mutsuo Takahashi
現代日本を代表する詩人のひとり。現代詩のほか、俳句・短歌・小説・脚本など多方面に活躍。俳句関係の著作に『荒童鈔』『稽古』『賚』『花行』『遊行』『十年』『私自身のための俳句入門』『百人一句』『季話百話』『歳時記百話』『詩心二千年』。読売文学賞ほか受賞多数。二〇〇〇年度 紫綬褒章、二〇一二年度 旭日小綬章、二〇一五年度 現代俳句大賞受賞。
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