第十六回/2015年 21世紀ケロリン俳句大賞第十六回/2015年 21世紀ケロリン俳句大賞

【選評】

激動の二十一世紀も早や一六年目に入った。生きることの原点を世界最短五七五音律に捉えるケロリン俳句大賞も十六回。ことしも目をみはる力作が集まった。
一般の部の大賞は清水滋生さん。旧約聖書『出エジプト記』のさすらいのイスラエル人にはモーセという優れた指導者がいたが、現代の近東からの難民にはそれがない。いや、人類全体を見渡してもないという、世界史的視野に立った柄の大きい句だ。
優秀賞の田中悦子さん、健やかに泣く嬰児に含ませた乳首から泉のようにあふれつづける母乳。これぞ健やかな母子像の原型、健やかな世界の原点だ。同じく浜田はるみさん、春のしめくくりの黄金週間のおしまいの日、動物園に行った。最も印象的だったのがあくびのため開いた河馬の大口。これも平和なればこその健やかな風景だろう。
学生の部。優秀賞の高岡秀旭さん、音を立てて続く心臓の摶動にも、音のない間というものがある。それは自らが生きていることの発見であり証拠でもある。社長賞の林優希さん、風邪を引き込んだか熱が下がらない、そのせいでのやりきれない憂鬱な気分。そこに訪れた小鳥たちの声に慰められたのだろう。私たちの生命は他の生命・非生命たちに支えられての生命なのだ。
他にも清新で魅力的な句が揃った。ぜひ一句一句、その中にこめられた生命感のヴァリエーションを愉しみ味わっていただきたい。 ◎なお審査員の責任において部分的に添削した作があることを申し添えます。

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【審査員】

写真:高橋睦朗氏

高橋睦朗氏 Mutsuo Takahashi高橋睦朗氏 Mutsuo Takahashi

現代日本を代表する詩人のひとり。現代詩のほか、俳句・短歌・小説・脚本など多方面に活躍。俳句関係の著作に『荒童鈔』『稽古』『賚』『花行』『遊行』『十年』『私自身のための俳句入門』『百人一句』『季話百話』『歳時記百話』『詩心二千年』。読売文学賞ほか受賞多数。二〇〇〇年度 紫綬褒章、二〇一二年度 旭日小綬章、二〇一五年度 現代俳句大賞受賞。

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