第十七回/2016年 21世紀ケロリン俳句大賞第十七回/2016年 21世紀ケロリン俳句大賞

【選評】

二十一世紀も十七年目。昨年から今年にかけて、アジアでもヨーロッパでもアメリカでも大国がエゴイズムを剥き出しにしてきた。こんなとき、人は母性なるものの無償の愛を再確認したくなるのか。一般の部にも学生の部にも母と子の句が目立つ。
一般の部、大賞の堀和久さん、いわゆる認知症だろうか。日々に心の毀れていくお母さんを抱きしめたくなるのは、かつて幼い日に抱きしめてくれたことを忘れないからだろう。冬ざるるとは私たちを囲む世界の昨今の棘とげしさのことでもあろう。
優秀賞の林雅則さん、乳首を含む子の目は頼もしげに母を見上げ、授乳させる母の目はいとしげに子を見下ろす。その背後には長い眠りから覚めて微笑むごとき春の山がある。同じく遠藤玲奈さん、恋の最中の二匹の猫が見つめあっている。その二つずつ四つの目が碧玉のようなみどり色でありながら、エロスの熱に燃えている。
学生の部、優秀賞の横溝麻志穂さん、こちらは同じ猫でも命尽きる瞬間の猫。降るような冬銀河の下、この世に名残り惜しむかのように瞳孔をいっぱいに開いて目を輝かせ、生きている時以上に懸命に逝こうとしている。
ケロリン社長賞の金高晴人さん、銀漢は天の川。天の川の光あふれる流れに浸かっているのは自分か、自分のひそかに愛する人か。大きく伸ばした四肢ー二本の手と二本の足を美しいと実感したのだ。
◎なお審査員の責任において部分的に添削した作があることを申し添えます。

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【審査員】

写真:高橋睦朗氏

高橋睦朗氏 Mutsuo Takahashi高橋睦朗氏 Mutsuo Takahashi

現代日本を代表する詩人のひとり。現代詩のほか、俳句・短歌・小説・脚本など多方面に活躍。俳句関係の著作に『荒童鈔』『稽古』『賚』『花行』『遊行』『十年』『私自身のための俳句入門』『百人一句』『季話百話』『歳時記百話』『詩心二千年』。読売文学賞ほか受賞多数。二〇〇〇年度 紫綬褒章、二〇一二年度 旭日小綬章、二〇一五年度 現代俳句大賞受賞。

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