一般に風邪の初期に用いる漢方薬といえば、葛根湯(かっこんとう)を思い浮かべる人が多いのですが、葛根湯の適応を教えてください。一般に風邪の初期に用いる漢方薬といえば、葛根湯(かっこんとう)を思い浮かべる人が多いのですが、葛根湯の適応を教えてください。

A.天野 : 風邪の初期で、体がゾクゾクする悪寒、発熱、頭痛および首筋にこわばりがあれば葛根湯は良く効きますが、胃腸が丈夫で、比較的ガッチリした体格の人に対して使う薬です。漢方では、一般に体力がある人を「実証」、弱い人を「虚証」と診断しますが、生理機能が低下している高齢者や虚証の人には葛根湯を使うのはふさわしくありません。それは、葛根湯に含まれている麻黄の主成分であるエフェドリンが交感神経を興奮させる作用があるためで心悸亢進や血圧上昇などの恐れがあります。また、胃痛、下痢などの消化器障害を起こす恐れもあり、高齢者の場合は、排尿障害も注意する必要があります。
OTC薬でも塩酸メチルエフェドリンやメチルエフェドリンを含む風邪薬は、高齢者に慎重投与指示があるように、葛根湯も同様の配慮が必要です。

【参考資料】
漢方保険治療ハンドブック
(日本東洋医学会刊・日本東洋医学会漢方保険診療指針編集委員会著)

表2 香蘇散と葛根湯の比較

  葛根湯 香蘇散
構成生薬 葛根、大棗(たいそう)、麻黄、芍薬(しゃくやく)、桂皮、甘草、生姜 香附子、蘇葉、陳皮、生姜、甘草
適応病期 風邪の初期 風邪の初期
適応体質 実証:体力がある、胃腸が丈夫、比較的ガッチリした体格 虚証:体力が低下、胃腸が弱い、神経質
適応病態 自然発汗がなく、頭痛、肩や背に緊張感があり、身体がゾクゾクした感じ、脈は浮いている 微熱、寒気、頭痛、みぞおちのつかえ、不安、吐き気、食欲不振、脈は沈んでいる
使用上の注意 ●胃腸の弱い人、心臓疾患のある人、高血圧のある人は服用を避ける
●副作用:低カリウム血症などによる偽アルドステロン症
●副作用:低カリウム血症などによる偽アルドステロン症

(漢方保険治療ハンドブックなどを参考に作成)
偽アルドステロン症:甘草を含む処方を長期間服用すると、尿量の減少、血圧の上昇、むくみ、手がこわばる、頭痛などがあらわれることがあります。こうした症状があらわれたときは、服用を中止して医師の診察を受けてください。